歴史
大自然が織りなす伝統の島
対馬には数多くの伝説や神話が存在します。
国産み神話と対馬
対馬は「古事記」の国産み神話において、イザナギ・イザナミの二神による「国産み」により、大八島の一つとして誕生しました。大八島は、本州・四国・九州に淡路島・佐渡島・隠岐島・壱岐・対馬を加えたもので、北海道・沖縄は含まれていません。
神話は古代人の思想や哲学を物語として表現したものであり、古典神話に対馬が登場することで、古代の中央政府がいかに対馬を重要視していたかがうかがえます。
また、古事記では対馬を「津島」(津=港)と表記し、古代から日本列島と朝鮮半島・大陸を結ぶ航路の拠点として認識されていました。
対馬には多くの神々が鎮座しており、女性のイメージで描かれることが多いです。古事記における対馬の別名「アメノサデヨリヒメ」は、浅茅湾を優しく抱く海の女神を連想させます。この島では、豊玉姫や懐妊した状態で朝鮮半島に出兵したと伝えられる神功皇后など、優しさと力強さを併せ持つ女神たちが語り継がれています。
海幸彦と山幸彦の物語
登場人物:兄・海幸彦(うみさちひこ/海佐知毘古/ホデリノミコト)と弟・山幸彦(やまさちひこ/山佐知毘古/ホオリノミコト)※山幸彦の子孫は初代天皇・神武天皇へと続き、日本の歴史の重要な一部となりました。
「海幸彦と山幸彦の物語」
昔々、神代の時代に、海で魚を捕ることを得意とする兄・海幸彦(ホデリノミコト)と、山で獣を狩ることを得意とする弟・山幸彦(ホオリノミコト)がいました。兄弟はそれぞれの得意分野で暮らしていましたが、ある日、弟の山幸彦が兄の釣り道具を羨ましそうに眺めながら言いました。
●道具の交換
「兄貴、その釣り道具、僕にも貸してくれないかな?」
山幸彦は何度も頼みましたが、海幸彦は断り続けます。「これは俺の大切な道具だ。貸すわけにはいかない。」
しかし、山幸彦のしつこいお願いに根負けした海幸彦は、ついに道具を貸すことを承諾しました。「今日だけだぞ!」
山幸彦は喜び勇んで海へ向かい、釣りを試みます。しかし、魚は一匹も釣れず、さらには兄の大切な釣り針を海の中に落としてしまいました。山幸彦は顔を青ざめ、途方に暮れます。
●兄の怒りと弟の苦悩
釣り針を失ったことを知った海幸彦は激怒しました。「俺の大事な釣り針を返せ!」
山幸彦は謝り続け、剣を壊して釣り針を作り弁償しようとしましたが、兄は「元の針でなければダメだ」と許しません。困り果てた山幸彦は浜辺で泣きながら座り込んでいました。
その時、潮椎神(シオツチノカミ)という老人が現れ、山幸彦に声をかけます。「どうしたのだね?」
事情を聞いた潮椎神は竹で編んだ小舟を作り、山幸彦を海の宮殿へ導く方法を教えました。「この船に乗り、潮の流れに身を任せれば、魚の鱗のように並ぶ宮殿に着くだろう。そこにいる海神の娘が助けてくれるはずだ。」
●海宮での出会い
潮椎神の言葉通り、山幸彦は海の宮殿にたどり着きました。宮殿の門のそばにある桂の木に登り、様子をうかがっていると、水を汲みに来た侍女に見つかります。その侍女は海神の娘・豊玉姫(トヨタマヒメ)にこのことを伝えました。
豊玉姫は山幸彦を見て一目惚れし、父の海神・綿津見神(ワタツミノカミ)に彼を紹介します。綿津見神は山幸彦を歓迎し、釣り針を探すために海の魚たちを集めました。すると、鯛の喉に釣り針が刺さっていることが判明し、無事に釣り針を取り戻すことができました。
●兄弟の和解
綿津見神はさらに、満潮と干潮を操る宝玉「潮盈珠(しおみつたま)」と「潮乾珠(しおふるたま)」を山幸彦に授けます。「兄がまだ怒っているなら、この玉を使って懲らしめなさい。そして、許しを請うたら助けてあげるのだ。」
山幸彦は地上に戻り、兄に釣り針を返しましたが、兄は弟を恨み続けました。そこで山幸彦は宝玉を使い、兄を懲らしめます。最終的に海幸彦は降伏し、弟に忠誠を誓いました。「これからは昼も夜もあなたを守る役目を果たします。」
●物語のその後
こうして兄弟は和解し、山幸彦は海神の娘・豊玉姫と結婚して幸せに暮らしました。山幸彦の子孫は初代天皇・神武天皇へと続き、日本の歴史の重要な一部となりました。